痩せ細った月が申し訳程度に辺りを照らす。日向の屋根裏に現れたサスケに似ている、とネジはぼんやり思った。
今彼がやって来たのはアカデミーの屋上、と言っても正式なものではなくむしろ屋根の上と呼んだ方が正しい場所だ。
木の葉の忍びの間ではここと火影岩の上、次点で中庭が告白スポットとして有名だ。
が、まさかサスケが自分に告白するつもりではあるまいとネジはあわてて首を振った。そんなこと想像したくもない。
「サスケ、来たぞ」
呼び掛けるとすぐさま背後の空気が揺れる。身のこなしと反応の良さはさすが木の葉でも五本の指に入る実力者の一人と言えよう。
「思ったより決断まで掛かったな。時間がない、ついてきてくれ」
サスケの声は洗剤でも飲み干したかのようにしゃがれている。見た目にも表れているが、相当体調が悪いらしい。
「待て、一つ答えて欲しい。お前は俺を巻き込んで何をするつもりなんだ?」
「・・・・・・来れば分かる。ここでは話せない」
サスケはそれ以上言葉を話すのは億劫だとでも言うように身を翻すと、
ネジが追いつけるか追いつけないかという絶妙なスピードで駆け出してしまう。
このまま目を離す訳にもいかない。
万が一ナルトやヒナタに危害が及ぶようならば止めるのは己の役目だと言い聞かせ、ネジは小さくなるサスケの背中を追った。
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日向の屋敷で一晩を過ごし帰宅したナルトの前に、全裸で抱き合う両親の姿があった。
「イルカ先生カカシ先生・・・俺がいないからってこんなところで寝てちゃダメだってばよ?」
養子に入り三人で暮らすようになって間もない頃は極力性的な匂いは隠すようにしていたが、今ではすっかりオープンである(カカシが)。
ナルトもすっかり慣れっこで取り乱すことはない。むしろ「二人のよりも俺の方がでかいってばよ!へへん!」などと比べて楽しんでいる。いつまでも慣れないのはイルカ一人だ。
「んな、ナルト!?」
脱ぎ捨てたベストを引っ掴みカカシと自分の局部を隠そうとするイルカから、息子の優しさで自然に目を逸らすナルトだった。
床に注目し、眉間に皺を寄せる。
「うわっカーペットがびがび。二人ともヤる時は後のこと考えなきゃダメだって」
「あ、ああ・・・」
こんなところにも表れる息子の成長っぷりにイルカの心中は複雑だったが、とりあえず手早く忍服を身に着けた。それを横目にナルトはカカシを起こしに掛かる。
「ほらカカシせんせー、起きるってばよー」
ほらほらーと揺さ振られ、カカシが低く呻いた。二、三度目をしばたたかせ寝転んだまま髪をガシガシと掻き毟る。
「んー、お帰りナルト。起きるから風呂入れて」
「もーしょうがねぇな!」
はたけ家のちょっと遅い朝はいつも通り始まる――はずだった。
「伏せろイルカッ、ナルトは奥へ!」
「!!」
カカシの鋭い声に風呂場へ行く途中のナルトが振り向くと、コンマ数秒遅れで窓ガラスとその周囲の壁が大破した。
「な、なんだ!?」
もうもうと上がる土煙の中から姿を現したのは、サスケの使役する巨大な鷹であった。