「ヒナタを俺にくれってばよ!」
ナルトが床を割る勢いで頭を下げる。
「貴様なんぞにヒナタをやれるかぁっ」
ヒナタの父・ヒアシが拳を握りこみ突き出した。ナルトは甘んじてその衝撃を頬に受ける。
「ナルトくん!」
吹き飛び畳みに倒れるナルト、追うヒナタ、佇むヒアシ。
「何度でも言うってば。ヒナタを嫁にくれ!」
ヒナタに背を支えられながらナルトは叫んだ。唇の端からは血が止め処なく流れている。
ヒナタは真っ白な瞳から涙をこぼしながらも、その傷を懸命に拭う。
その様子を一瞥したヒアシは背を向けた。一度目頭を押さえ、振り返らずに一言だけ二人に投げ掛ける
「・・・好きにしなさい」
その背中の大きさ、山の如し。
「お父様・・・!」
ナルトを抱き込んだヒナタは先程とは種類の違う涙を一筋だけ流した。
日向の使用人達がタイミングを見計らいスルスルと幕を降ろす。途端、慌ててヒアシがナルトに駆け寄った。
「大丈夫かいナルトくん、『娘さんを僕に下さい』ごっこで何もここまでしなくても良かったのでは・・・」
「これがけじめってヤツだってばよ!大切なヒナタを貰うんだからこれぐらいの傷どーでもないって!」
「結婚の前に子供が出来たのには驚いたがこれも時代だからな。それにしても孫か・・・ヒナタ、おじい様とおじいちゃまとじーじ、どれを呼ばせるべきだろう」
「もう、お父様ったら気が早いんですから・・・!」
「男だったらじいちゃんがいいってば!」
「そうだな、男らしい。女の子ならおじいちゃまかな、はっはっは」
三人の間に和気藹々とした空気が流れる中、天井裏で一人唇を噛み締める男がいた。木の葉の上忍日向ネジその人である。
「ヒナタさま・・・」
ネジは決して二人の結婚に反対しているわけではない。
自分の認めた男であるナルトなら大切な従姉妹であるヒナタを幸せにしてくれるだろうし、
これまでも交際がうまく行くように相談に乗ったりアドバイスをしたりと様々な後押しをしてきた。
問題は『出来ちゃった結婚』ということなのだ。
『出来ちゃった』ということは、その原因となる行為を二人がしていたということである。
ネジにはどうしてもそれが受け入れられないでいた。だって二人ともかなり純粋なのだ。
コウノトリ理論とキャベツ畑理論を未だに信じていると耳にした時は驚いたが、それを訂正する気にはならなかった。
ナルトを観察していても薬局にコンドームを買いに行く様子もないのですっかり安心していた。
性交渉が悪とは言わない、むしろ赤子を生み出す大切な行為だ。
しかしこのカップルが婚前にそういうことをするのは似合わないと思っていた。
順序を追って幸せになるのだと決め付けていた。
どうか清い交際のままゴールインを・・・と願っていたらこの『出来ちゃった結婚』。
顔を赤らめた二人から報告を受けた後、ネジは持っていたAVを全て叩き割った。
大好きだった小町ありすちゃんの限定DVDを割った後我に返り、二重の苦しみに悶えた。
しかしやはりショックが大きいのはネジの中で『美しいカップル』の象徴であった二人という理想の崩壊の方だ。
本当は今すぐこの薄暗い屋根裏から飛び出してナルトとヒナタ、そしてお腹の赤ちゃんを祝福したい。だが体が動かない。
悶々と悩み続けるネジの背後に音もなく一つの影が現れた。
「ネジ・・・」
声を掛けられネジはやっとその存在に気づき、振り返り愕然とした。
頬からはごっそりと肉が削げ落ち、赤い目だけがむやみやたらにギラギラとしているその男は――
「サスケ、どうしたんだそんなに痩せて!」
「ネジ、俺と組む気があればアカデミーの屋上に来い」
うちはサスケはネジの問い掛けには答えず、目的だけ告げると再び姿を消した。