【赤ちゃんが出来たってばよ(1)】

※ナルヒナにちょっと露骨な表現があります。ご注意を。


「ふ・・・二人とも、今言ったことは本当なのか?」
 はたけ家の居間に正座したナルトとヒナタは、イルカの言葉に黙って頷くしかなかった。
「子供ねぇ・・・避妊しなかったの?男の嗜みでしょナルト」
 一人息子(でも養子)の衝撃の報告だったが、イルカと違ってカカシは冷静だ。
「だ、だって昔イルカ先生が『赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるんだよ』って教えてくれたってば!
だからゴムって何の意味があるのか分かんなかったし、ヒナタもゴムあると痛いって言うし・・・」
「人のせいにしないの。アカデミーの授業で保健体育はちゃんとカリキュラムに入ってるんだから」
 ナルトはぐっと詰まってしまう。授業をちゃんと聞いていなかったのは彼の非だ。
「ヒナタ、お前ナルトに教えなかったのか?」
「お父様から、『子供はキャベツ畑で拾ってくるんだ』って教わっていたので・・・授業の日は病気で休んでました」
 コウノトリとキャベツ畑理論を信じていた十八歳カップル。
 カカシは「天然記念物ものだねぇ」と思ったが、イルカに怒られるのが怖かったので口には出さなかった。
「で・・その、二人はどうしたいんだ」
 イルカの声は硬い。
「産んでもらうってばよ」
「産みたいです」
「・・・ま、それしかないだろうね。でもヒナタは日向の宗家だし、そう簡単な話じゃないんだよ」
 俺達もそれなりに大変だったしね、とカカシはイルカに話しかけたがイルカにとっては「それなり」ではない。
 カカシがイルカを攫って里抜けとみなされるギリギリラインまで連れて行くわ、
上層部の肯定派と否定派が高等忍術でぶつかるわ、
何故か各国の女性の連合軍が現れこぞって二人を匿うわと木の葉を揺るがす大事件だったのだ。
 二人には周囲が認める幸せな結婚をしてもらいたいと願っていた矢先のこの報告に、イルカは頭を抱えた。
「カカシ先生、イルカ先生、俺二人が家族になってくれた時すごく嬉しかった。俺には父ちゃんが三人と母ちゃんが一人いるんだってば」
 「イルカ先生はお母さんじゃないの?」というカカシのツッコミはイルカの一睨みでなかったことにされる。
「四人ともすごく大事だけど、今一番大事なのはヒナタとお腹の中の赤ちゃんなんだ」
 ナルトくん、とヒナタがナルトにすがりついた。ナルトは両親に背を向け、ヒナタのお腹と頬に優しく手を這わせる。
「二人がダメだって言っても俺達三人は絶対に家族になるんだってばよ」
 子供が大人になるのは早い。時と共に実力と人望を手に入れた息子の背中は、最早少年のそれではなかった。
 ――大きくなったな。
 やせっぽっちで一人ぼっちだった子供はもうどこにもいない。イルカは隣のカカシを見やってから静かに口を開いた。
「・・・子供の幸せを願わない親がどこにいるんだ?」
 二人が顔を上げた。カカシは満足そうだ。
「じゃあっ」
「ちゃんと火影様やヒナタのご家族にも許しを得るんだぞ、自分のしたことの責任は自分で取れ。
ただサポートが欲しい時は素直に頼りなさい。以上!」
 かつてのアカデミーでのイルカを思わせる言動にナルトもヒナタも少年少女のように笑った。


 日向に挨拶に行くと言う二人を見送ってからイルカはカカシにぎゅっとしがみついた。
「どうしたの?」
「・・・こういう時取り乱すのって普通父親じゃないんですか」
「ナルトは両方父親だって言ってたじゃない」
「そうですけど」
 イルカは口を尖らせた。カカシはいつでも飄々としていて感情的になりやすい自分が子供みたいに思える。
「新婚さんごっこしようね。デキ婚でもバツ一でもないのに結婚した時からあんなに大きい息子がいたから」
 冗談で流そうとしたのに、イルカの心の中には結婚当初いつもついて回っていた不安が久々に膨れ上がっていた。
「――カカシさんは」
 血の繋がった子供、欲しかった?
 イルカはその先の言葉を飲み込んだが、カカシには通じてしまったようだ。
「それ以上言ったら怒るからね、俺はイルカ先生を選んだんだよ。それに、子供はナルトだけで十分です」
「・・・はい」
 それは何度も繰り返された問答。カカシの返答は表現こそ違えど、数年前騒動を起こした頃から全く変わっていない。
 優しく力強い言葉がイルカを安心させる。
 イルカから不自然な力が抜けるのを確認するとカカシはにっこりと微笑んだ。
「これから大変ですよー。イルカ先生もその人脈をフルに活用してやってくださいね。主に上の爺とか上の婆とか、あとは中忍と下忍全員と里の人達と――」
「じゃあカカシさんは上忍と暗部と大名家の皆さんお願いします。やっぱり書状で――」
 木の葉の最強夫婦の作戦会議はその後夜遅くまで続いたという・・・。


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