「でさ、カカシ……コレ登った?」
コレ、と梯子を顎で指してもカカシは首を振った。
「少しだけ。でもすぐ諦めて、俺は動くのごと止めた」
「どうして?」
「ここまで登るのも結構大変だったんだよ、壁砕いたりしてさ。すごくすごく時間が掛かって、やっと辿り着いたと思ったらこれだもん。うんざりしちゃって。
イルカが来るまで俺は半分何者でもなかったんだ。全て放棄してた」
過去を辿るカカシはとても遠い目をしていた。
何だか胸がざわざわして堪らなくなってカカシに抱きつくと、彼もまた抱き締め返してくれた。
意味も分からず反復活動を停止され、塔という周囲との圧倒的差異に縋りついてここまでやって来たオレ達。
誰にもこの気持ちは絶対に分からない。
この世界にたとえ他に何人同じ境遇の奴がいたとしても、この感情の全てが共有できるのはオレとカカシの二人だけだ。
いや、カカシはオレよりも気の遠くなるほど長い時間を一人で、絶望して過ごしてきたのだから実際はオレでも足りないのかもしれない。
けれど。
「カカシ、もうオレがいるからな」
「アリガト。イルカは全部暖かい、俺と違う。すごくいい」
互いを救えるのは互いだけだ。
心の真ん中に大きく開いた穴を埋められるのはお互いの差異だけだ。
「登ろ、二人で。いろんな話をしよう。未来の話もしよう」
「うん」
オレ達は立ち上がり、終わりない天を仰いだ。
******
二人で言葉を交わしながらひょいひょいと梯子を登る。
カカシが先に、オレが後につき、飽きたら「休もう」と声を掛け合って。
梯子は正体不明の素材で、喩えるなら飴細工のような繊細さを漂わせている。細く脆そうなのに大人の人型二人が登ってもビクともしない。
「これ、誰が置いたんだろうな」
オレが訊ねるとカカシは憮然とした声を出した。
「それは分からないけど、置いたそいつは今も俺達を監視してるのかねぇ。悪趣味」
「絶対ニヤニヤしてるよな」
「ヤな感じ」
空の上から全てを牛耳っているそいつにとって俺達の存在も暇つぶしなのだろうか。
適当な者から能力を奪って行動を観察する。
子供が蟻の足をもいで放置するのと同義。
考えれば考えるほど腹が立ってきて、オレは盛大にカカシに愚痴り、カカシも同じだけ不満を返した。
カカシの声は相変わらずでかい。塔の下の、何も気に留めず【箱】への出入りを繰り返す奴等にもこの不満タラタラの愚痴は聞こえてるかもしれないと思うとおかしい。
「上に辿り着いたらそいつぶん殴ってやろうね」
「おー」
気づけば梯子の根元が見えない所まで登ってきた。
目が眩む。上を見ても下を見ても梯子は途中から霞んでいる。
飴の梯子に捕まるオレ達の不安定なこと。
そんな時、カカシが「ねえ」と動きを止めた。
「どした?」
「ちょっとごめんね」
「何――――」
カカシは休憩を提案するかのようないつもの調子で喋ると、長い脚でオレを蹴落とした。