殺したがり

 静かなはずの真夜中の森の中に爆音が響く。その合間合間で金属がぶつかり合う音が絶えず響き、それが止むと鉄の臭いが増す。
「やめろイルカ、深追いするな!」
 男の声も空しく、肉が裂け何か重たいものの落ちる音がした。
「バカ野郎、そいつはお前がやらなくても死んだだろ。さっきもお前は・・・」
 イルカと呼ばれた青年は何も言わない。
 忍刀に付着した血を拭い取り何事もなかったかのように、ただ怒鳴った男を見つめる。
 男もそれなりに腕の立つ忍びであるが、イルカの瞳に思わず慄いた。
 忍びの夜目は見たくもないものも見えてしまうのだ。
 それは、味方である者の奥底に流れる形にならない殺人欲であったり。
 殺したりないと飢える獣の声にならぬ叫びであったり。
 殺気もないのに男の背筋に嫌な汗が流れた。
 このままじゃいけない。男は賢明だった。
「――帰るぞ」
 こんな壊れ者からはとっとと離れるのがいい。それが結論だった。
 踵を返し夜を駆ける男の背を追いながら、イルカはぼんやり思う。
『殺せるのならそうした方がいいじゃないか』


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