「おや」
子供達の修行にちょうどいい巻物を探しに資料室へ向かう道中、俺は黒い手帳を発見した。
なんだこれは。デ○ノートか。
デ○ノートがあったら暗殺任務も楽でいいのになあなどとぼやきつつ、罠の気配がないのを確認してから拾い上げてみたが、やはり何も起こらない。
ついでにリンゴ好きの死神の姿も現れない。残念だ。
くるくると回して外側を満遍なく検分してみても持ち主のチャクラはなし。
忍犬を呼び出せばあっという間に持ち主が分かるのだろう。
しかしそんなことにチャクラを消費するほどこちらもお人好しでも暇でもない。
だからこれからすることは仕方のないことなのだ。
別に忍びの癖に手帳を作って尚且つ落としてしまうような人間がどんなヤツなのか気になってしょうがないとかそういうふしだらな理由ではないのである。
「内容はいけーん」
だが目に飛び込んできた内容は予想以上に不可解なものだった。
表紙を開いてすぐの走り書きの文字。それは――
カカシさん消滅計画。
なんだそりゃ。
******
タイトルも酷いが内容もまた酷い。
以下抜粋。
1.必要以上に話しかけない
2.笑顔を抑える
3.(万が一あったら、と赤線と矢印が引っ張ってある)誘いがあったら断る
4.目で追わない
これで俺が消滅するとこれを書いた人間は思っているのだろうか。
だとしたらこの里の誉れ、千の技をコピーしたコピー忍者、木の葉の業師、夜も業師の写輪眼のカカシが舐められたものである。
一体誰なんだこのフザけた手帳の持ち主は!
少々プンスカしつつページを捲ってみるとそれはあっさりと判明した。
ナルトと一楽!(餃子は抜き)
イルカ先生かーッ!!
******
解せない。何故イルカ先生が俺の命を狙うのだ。
しかもあんな効果のなさそうな方法で。
ここで俺の中のイルカ先生情報を整理してみる。
・ナルトをちゃんと育ててくれたアカデミーの教師
・毎日ラーメンしか食べてないと思われる。一楽の回数券を所有しているらしい。
・声がでかい
・結った髪が犬の尻尾みたいでちょっと可愛い
・鼻傷は幼い頃についたらしい
これぐらいだ。なんて少ない。しかも偏っている。(ナルトのせいだ)
接点なんてナルト関連と受付くらいだけなのに!
ってよく考えたらそれだけの接触で上記の四か条を実践されたくらいで俺が死ぬわけがない。
なーんだはっはっは。
******
上忍待機室のソファでうな垂れる俺がいる。
「おいカカシ、お前大丈夫なのか?」
「うるへー・・・」
アスマが心配するのも当然だ。
ここ二週間の俺は自分でも自覚できるほどオカシイ。
理由だって分かっている。
イルカ先生が一辺通りの笑顔しか見せてくれない、七班の子供達について訊ねてもくれない(本人から直接様子を聞いてるらしい)、
ならばと誘いをかけてみても用があるって断られ、ナルトと一楽にいる所を狙ってみてものらりくらりとかわされる・・・。
だってあの時は知らなかったんだ、イルカ先生が俺に見せる笑顔が特別で、少し話すだけでも凄く楽しくて、俺の精神安定にこんなに買ってる人だなんて。
おかげで毎日ボロボロだ。
めきめき力をつけてきたナルトのウスラトンカチ具合が物足りないのか、サスケが矛先を俺に向けるようになったくらいだ。
お前は誰かにウスラトンカチって言わないと死んでしまう病クランケか!
しかしイルカ先生は部下にも蔑まれる俺にちょっと困ったような顔をするだけで決して話しかけてはくれない。
ストレスを夜の街で発散しようにも腕が振るわず追い討ちをかけるように勃起不全を発症した。
笑ってくれよ、夜の業師がインポだよインポ。
最近ではイチャパラを読んでもギンギンにおっ勃ててる登場人物にむくむくと怒りが湧いてくるだけで面白くない。
限界だ。
俺は今猛烈に怒っている。
誰にかというとイルカ先生にあんな計画をするよう勅命を下したと思われる火影様にだ。
以前の様子を思い出して見るからに、イルカ先生は決して俺のことを嫌ってはいなかった。
なのにだ、なのにあんな態度をとるのは絶対火影様の差し金に決まっている。
目的は何だ。俺のイチャパラコレクションか、それとも若い子にモテモテの俺に対する僻みか。
許すまじ火影!木の葉崩しじゃい!
******
「失礼します!」
アポも取らずに火影室の扉を叩き開けた俺に火影様は動じることもない。
想定内の行動って訳か。
「なんじゃカカシそう殺気立ちおって」
火影様はそらとぼけてパイプなんてふかしている。
「なんじゃじゃありません。イルカ先生に下した勅命を今すぐ解いて下さい」
火影様は煙を吐き出すとそのままぽかんとした表情をした。
いつも核心を突かれそうになった時に見せる食えない表情とは違うものだ。
「なんじゃあそりゃ。あやつにはアカデミー教員と受付の仕事以外与えとらんぞ」
この期に及んでまだシラを切るつもりらしい。
こちらとしても最早限界なのでさっさと交換条件でもなんでも出してもらって、この地獄のような状況から抜け出したいくらいなのだから、誤魔化す必要もないというのに。
「嘘です。じゃああのイルカ先生の態度はなんなんですか!」
俺のいつにない剣幕に火影様がのけ反った。
「態度?」
「そうですよ。イルカ先生が俺のこと気に掛けてくれなくなったのは火影様のせいでしょう!?」
「知らん。それはあれじゃろ、イルカがお主のことを嫌いになっただけで、誰かの策略とかそんなもんは一切入っとらんと思うぞ」
なんだって?
「キライ?イルカ先生が?」
「うむ」
嘘だ。
「俺を?」
「う、うむ」
嘘だ嘘だ嘘だ。
「そんな・・・」
火影様の言葉が脳に染み入ると同時に頭の中が真っ白になった俺はそのまま火影室を駆け出た。
その後のことは覚えていない。
本当に覚えていない。
だから気がついたらイルカ先生を抱きかかえて自宅にいるこの状況に、当事者の俺でさえも説明がつかないのである。