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【箱】の中から戻ってきて、ビビッと波長を感じる別の【箱】に入ってまた誰かの生命活動の一期間を拝借する。
それが世界の全てだと思い込むのはおこがましいし愚かではあるけれど、少なくともこの無数の【箱】の中と、今のところたった一つの外ではそれが常だ。
本能と基本的な思考形態が整った外枠の身体に操縦士として乗り込む感じ。
もっとも【箱】の中では、オレはずっと乗り込んだそいつが自分自身で、死ぬまで自己は不変であると信じているわけだけど。
この活動について深く考え込んだことはこれまで一度もなかった。
でも事態が変わった。突然【箱】に入れなくなってしまったから、オレは初めてこちらの世界で頭を働かせている。
辺りを見渡してみると人型のヤツも犬型のヤツもとにかくどいつもこいつも、
オレに関心を抱く素振りすらなく淡々と【箱】を選んでその身を中に滑り込ませていく。さっきまではオレもそうだった。
何一つ疑いなく、しいて言葉を当てるなら『本能的』に、その行動を繰り返す。
まだ胎児の状態で親の腹の中での一期間を体感したこともあったし、まさに食われる寸前のウサギになったこともあった。
一番最近は海を自由に泳ぐイルカで、群れの仲間と広々とした海を楽しく泳いで暮らしていた。
カマキリの卵だろうが寄生虫だろうが、無数の生命の一期間を間借りしてきたオレであるが、
『オレ』を自覚して動くのは初めての経験だ。
そもそも自分の一人称が『オレ』で、形が人型であるのもたった今気づいたくらい。それくらいこちらの世界を意識なんてしていない。
ここ、【箱】の外の世界についてと何でもいいから分かることを再確認してみることにした。
まず、とにかく【箱】が沢山並んでいる。それは前から知ってる。何しろ【箱】を選ばなければ何も始まらないから。
始まらないということは何も起こらないということ。この後に生きるのか死ぬのか、そもそもこの空間にそんな概念があるのか否かもはっきりしない。何一つ分からない。
オレの定規はあくまで【箱】の中の常識でしかないのが困りものだ。
【箱】の中ではある程度のレールに乗っかって動けばなんとかなるけれど、ここにはそんなものがないのだろう。だって今現にオレは何をしたらいいのか分からない。
辺り一面が白くて四角い同じ形の箱。オレを拒絶する箱なんかに興味はないし、むしろ腹立たしいだけだ。あとは箱に入ろうとしてたり出てきたりと忙しないヤツら。それと―――
「塔?」
塔と呼んでいいのかは分からないが、この空間の地面をそのまま空から引っ張ったような、山にしては尖り過ぎているそれが遠くに見えた。
気にしたこともなかった、あんなものがあるなんて。この場所の唯一の『特別』なものを目指し、歩くことにした。
距離とかそんなのはどうだっていい。『目標』が出来るのは希望だ。逆に『虚無』とは恐怖。あそこに何があろうとなかろうと、一定時間の安心が何よりも欲しかった。