イルカ先生と毎日イチャパラライフを送っている俺だったが、
人間の欲望というのはどこまでも深くなるもので、最近ある悩みが生じている。
イルカ先生からエッチのお誘いがない。
思えば俺達が結ばれたあの夜以降、イルカ先生のアクションでコトに及んだことなど皆無だった。
それにあの日だって本格的なスタートは俺のゴリ押しだったし。
イルカ先生は俺が誘うとちゃんとイチャラブまっしぐらの道を共に歩んでくれるのだが、
放って置けば一月でも一年でもその道に足を踏み入れようとせず、
獣道にしてしまうような淡白さを持ち合わせている。
あんなに乱れるエッチな体をしてるのに・・・まさか、俺が物足りない?求める価値もないってコト!?
いやいや失神させちゃうくらい燃える夜もあることだし。でもなぁ。
「おいカカシ」
部下達の口からイルカ先生に俺が悩んでいることが耳に入るのも嫌だったので、
彼らの前ではあくまで平静を装っている。
サスケは俺もナルトも、勿論サクラにも貶す要素がないので、
この間はお色気の術を修行中の木の葉丸くんのところまでわざわざ出向いて
「ウスラトンカチ」と言っていたらしい。
アイツ一回病院で調べてもらった方がいいんじゃないの?
大いに話が逸れた。えーっと何だっけ。
「カカシの悩みがイルカ先生にバレないように子供達の前ではシャンとしてるって話からよ」
ああ、ありがとう・・・って。
「何なのお前ら、人の心読まないでよね」
上忍待機室で木の葉のモンスターカップル・猿飛アスマと夕日紅が、あろうことか俺の脳内を覗いていたようだ。
「お前が脳内駄々漏れさせてるんだろうが、こっちは聞きたくねぇっての」
アスマは紅の前で煙草を吸うと怒られるので、裂きイカをひっきりなしに噛んでいる。クチャクチャうるさい。
「あら、私はちょっと興味あるわよー」
紅は面白がってるし。まあいい、こいつらに相談してみよう。
「正直どう思う?」
「サスケは心療内科に連れてった方がいいと思うぞ。
あいつはエリートだから誰かを貶めないと精神の安定が保てないんだろう」
「そっちじゃなくて、イルカ先生!」
サスケのことはどうでもいい、ツバでもつけときゃ治る。
イルカ先生が舐めてくれたらたとえどんな傷でも俺の怪我は完治するだろう。ついでにマイサンも舐めてくれればチャクラだって満タンだ。
「カカシ、脳内がまた漏れてるわ、セクハラよ」
「あ、ごめーんね」
どうも俺はイルカ先生のことを考えていると機密事項まで喋ってしまいそうなくらいゆるゆるになってしまうみたいだ。
ちょっと気合を入れてあーでもないこーでもないと三人で(ほぼ俺と紅だが)話し合っていると、脇から団子の串が突き出されてきた。
「イルカって待ち受けなんじゃない?」
突然現れたみたらしアンコは不可解なことを口にする。
忍びが携帯電話を持つことはないけれど、許可されたとしたら俺の待受け画面は間違いなくイルカ先生にする。
「あんた達今ケータイの方思い浮かべたでしょ。
そうじゃなくて、待ち受けってのは攻めから誘われれば応じるけど自分からは絶対誘わない、
待ちの姿勢の受けってこと」
多分俺達三人の思いは一つだ。何でそんなこと知ってるのアンコ・・・。
「んー、その待ち受け?ってのを矯正したりは出来ないの?」
アンコはにっこり笑って右手を差し出してくる。畜生、俺は団子十本分の金を掌に乗せた。
「毎度あり。性格だからそういうのはムリだけど、アンコ姉さんの予想では今日お誘いがあると思うわよ?」
だから早く帰りなさいねーと言い残してアンコは姿を消した。どうせまた団子でも買いに行ったのだろう。
「――まあ詳しそうなアンコがそう言ってるんだから帰れば?イルカ先生そろそろ仕事終わりでしょう?」
時計を見るとちょうど五時になるところだった。今日は受付の任務もないと言っていたので一緒に帰る約束をしたのだ。
「ホントだ、そうするよ」
俺は二人に手を上げるとアカデミーの校門へ急いだ。
積極的に求めてくれなくてもイルカ先生が俺を愛してくれているのは間違いがない。
そうでなかったらこんな幸せそうな表情をして手を繋いで帰路を辿らないだろう。
イルカ先生がニコニコ嬉しそうだと俺も満たされる。
夜のお誘いも俺がすればいいんだしね、と心のモヤモヤがちょっと晴れた。
******
今日の夕飯はカレーだった。野菜が溶け込んでいてとても美味しい。
なんと朝から準備していて、昼休みにも帰宅して仕込んでいたらしい。
「金曜日はカレーの日です!明日はおやすみですから頑張って消費しましょうね」
と笑うイルカ先生はとても可愛い。ああ、いいなぁ。
こだわりカレーのお返しに洗い物を引き受けて、イルカ先生にお風呂を使ってもらった。
先生が出たら入れ替わりに俺も入って、湯船の中で今日どんな風に誘うか考える。
さっきも噛み締めたけど、今俺の人生の中で最大級に幸せな期間だと思う。
上忍待機室で鬱々と考えていた悩みの贅沢なこと。いいじゃないか、別に。
すっかり良い気分で風呂を上がるとイルカ先生が先に潜っているベッドに滑り込んだ。後ろからパジャマのボタンを外しにかかろうとしたのだが――
「え・・・?」
ボタンがない。というか、先生服着てない。
イルカ先生は固まったままの俺の手をもじもじと弄ると、ぐいっと自分の胸に引き寄せた。
「カカシ先生・・・」
チラと俺を伺う先生の瞳には熱が篭っている。
「あの、ここ」
俺の手を今度は下に運ぶ。何故俺は動けないのだろう、金縛りに遭ったみたいだ。
「・・・してください」
もしかしなくても、これはお誘いではないだろうか。
脳が結論を出すと同時に、金縛りは弾け飛んだ。
俺の記憶が正しければ、初めての日の倍くらいはしたと思う。ぶっちゃけヨ過ぎてよく覚えてませんごめんなさい。
******
朝、というか昼に俺が起き出すとイルカ先生はカレーを温め始めた。当たり前だがもう服は着ている。
「あの、昨日の・・・」
俺が切り出すと先生はギクリと体を強張らせた。あれ、何か最初の日を思い出すな。
「き、昨日の俺は嘘ですから!」
嘘?いやいや実体でしたよ。
そこで俺ははたと思い当たった。昨日は四月一日、エイプリールフールだ。
アンコの話が脳裏に甦る。
いわゆる待ち受けタイプなイルカ先生だけど、ずっと一緒にいて俺の我儘な悩みに気づいてたのかもしれない。
エイプリールフールというイベントに託けて、恥ずかしいのを我慢して俺を一生懸命誘ってくれたのだとしたら?
いや、そうに違いない。だってイルカ先生は俺が大好きなのだから。
「すっかり騙されちゃいましたよー」
おどけてそう言うとイルカ先生がホッと息を吐いた。可愛い人、愛しい人だ。
涙なんて込み上げてきちゃったのでそれを悟られないために、俺はカレー鍋に向かうイルカ先生を後ろから強く抱き締めた。