カカシさんが消息を絶った。
里の皆はカカシさんの認証タグが見つかっただの
指紋が合致する左の小指が発見されただのと騒がしいが、
死体が見つかっていないのでオレはそう表現する。
見つかった小指が出立前に約束を交わしたものだと分かっていても、
死んだとは限らないじゃないか。
それなのに自爆してバラバラになったのだと言われた。
仲間を守るためと、写輪眼を他里に渡さないための判断だろうとも。
あの人はきっとお前を思って死んだだろうと。
オレはそんな誰かの頭の中の都合の良いカカシさん論はいらなかった。
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長期休暇を取って木の葉を発った。
カカシさんのために編んだマフラーを着けて、カカシさんが似合うと褒めてくれたコートを纏って海へ向かう。
三日歩いて野宿をしようと準備していると、潮風のにおいが漂ってきた。海が近い。
途中手持ちの投網で捕まえた狸を適当に焼いて食べて、腹が膨らんだら寝る。少し迷ったけど火は消すことにした。
燻った煙はオレより先に木の葉に帰るのだろうか。
翌朝は何も食べずにキビキビ歩いたおかげで、昼頃に海へ到着した。
冬の海はどんよりとしていて、あんまり綺麗なもんじゃない。元気が吸い取られそうな負のオーラで一杯だ。
だからと言って帰るわけにもいかないので、砂に足を取られないようにしてもう少しだけ海に近づいた。
「しょっぱいな」
浜辺に立つと何もかもが塩っ辛く感じた。コートが潮風でダメになってしまいそうだ。
「しょっぱい」
頬を流れる塩水でマフラーもぐずぐずになってしまうかもしれない。
「しょっぱいよ・・・」
「あと一日くらい待ってなさいよ、そうすりゃ塩分過多にもならなかったのに」
あーあー俺のマフラーこんなに濡らしちゃって、と声の主は言った。
銀色、蒼い右目、約束の小指を持つこの人をオレが間違えるはずもなく。
「かかしさん?」
「はーい?」
「かかしさん」
「うん」
「カカシさん」
「ごめんね、遅くなっちゃって。これでも急いで帰ったのにイルカ先生里にいないんだもん」
「・・・カカシさん」
「小指、なくしてたやつ五代目がくっつけてくれたからまた指切りげんまん出来るよ」
「ばか」
瞼を閉じると睫毛や目尻にたまっていた涙がポロポロ落ちる。
瞼を開くとカカシさんが微笑んでいる。ぼやけた、と思ったら顔が近づいてきていた。
久し振りのキスは触れるだけ、それでもとてもしょっぱい味がした。カカシさんもそうだったみたいで僅かに眉を寄せてオレを睨む。
「イルカ先生のせいだ」
「潮風のせいです」
「イルカ先生の涙の味でしょ?」
「もう黙ってください」
二回目のキスはちゃんとカカシさんの味がした。
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行きは三日と少しだったけど帰りは二日に短縮して、カカシさんと共に門の前に立った。
門をくぐった途端ナルトはぐしゃぐしゃの顔で突撃してくるし五代目には凄い目で睨まれるし。
サクラはずっとハンカチで顔を覆ってるし他の皆も・・・あれれ。
「そういえば俺イルカ先生が自殺するかもしれないから連れ戻して来いって言われてたんだった」
「そんなことするわけないじゃないですか。カカシさんが帰ってくる前に時期外れの秋刀魚を密漁してこようと思ってただけなのに」
「俺が死んじゃったかもとか疑わなかったんだ」
「疑わなかったけど海ではちょっと感慨に耽りました」
二人で五代目にこってり絞られてからやっと、オレには五日振り、カカシさんには半年振りの我が家に帰ってきた。
飯を作る気力がなかったので買ってきた弁当を広げ、ウチで淹れた茶を啜る。
それから大人な触れ合いをたくさんして、離れ難くて繋がったまま一眠りした。
起きてからはくだらない話を山ほど。いくら話してもキリがない。
海への道中食べた狸の話をしたら、今度からもっとよく火を通すようにと注意を受けてしまった。肉はレアが美味しいのに。
お互いの心が半年分埋まったところでカカシさんがマフラーを持ち出した。
そして何を思ったのか自分の顔を半分隠すほどぐるぐる巻きにしてしまう。
家の中でマフラーをしてどうするつもりなんだろうこの人は。
「二種類の塩味がする。感慨の味だね」
「・・・いじわる」
いじわる、ばか、もういなくならないで。
エセ乙女チック