ヴァージンロード

「ふむ……仕方ない、結婚を認めよう。しかし、ヌシらには『木の葉館』の教会で式を挙げてもらう」
 火影の前に立つ二人の忍びは顔色をなくした。
 銀色の髪を持つ猫背の男が世に名高い木の葉の上忍はたけカカシ、黒髪の背筋の伸びた男が九尾の少年をも包み込む慈愛の中忍うみのイルカ。
 二人は運命の出会いをし、瞬く間に恋に落ち、ケジメをつけるため三代目火影猿飛ヒルゼンに結婚の許可を求めにきたのだが、イルカを偏愛する権力者はそう甘くはなかった。
「わしは婚前交渉は言語道断だと思っておる。それが可愛いイルカなら尚更じゃ」
 色好みの己のことは棚に上げ、火影は申し込みを受けるなりそう言い放った。
「カカシ、よもやイルカに無体な真似を強いてはおらんじゃろうな」
 強いていた。
 強いるというか、イルカもノリノリで受け入れていた。
 AVもイチャパラも真っ青なプレイを毎晩繰り広げている。
 二人は忍びであるから表情や態度は平静を取り繕えたが、内心は大荒れだった。
「も、勿論です」
 気持ち硬くなった声でカカシが返答する。それを聞いた上で返された条件が、まさかの『木の葉館』の教会での結婚式。
 里では知らない者はいないほどその教会は嘘つきのカップルには恐ろしく、結婚を認めたくない父親には歓迎される場所だった。
 『木の葉館』の教会のヴァージンロードは、花嫁が花婿に貫かれていると神の前で床が抜け、二人で落下する仕組みになっている。
 誰かが操っているのではなく、どうやら何代か前の元忍びであった変わり者の神父が、面白半分にそういう術を掛けたのだという。
 後ろめたい花婿にとって義父にそこで式を挙げろと言われるのは死刑宣告に近しい。
 かといって断ることも出来ない。板挟みの状態だ。
 前日で新郎新婦がノイローゼで入院することも少なくないという、ある種呪われた式場なのである。
 カカシとイルカは憔悴して自宅に辿り着くと、顔を合わせて溜息を吐いた。
「どうしましょうか……オレ、カカシさんと結婚したいのに、火影様ったら……」
 じわり、とイルカの目元が赤くなる。
 カカシは慌ててその肩を抱いた。
 大切な奥さんを泣かせるわけにはいかない。
「大丈夫です、イルカ先生。俺がなんとかしますから……」
「カカシさん……!」
 その後二人が盛り上がってナニをしたかは言うまでもない。


******


 秋のよく晴れた日、木の葉の里で大々的に祝福されるあるカップルの結婚式が開かれた。
「カカシのヤツ、木の葉館で式なんて挙げて大丈夫なのか?」
「最近のカカシったらテカテカしてて、誰が見たって体繋げてるの一目瞭然じゃないの……」
 などと、近しい者達からは危ぶむ声もちらほらと聞こえる。
 火影はほくそ笑んだ。
 蝶よ花よと育て上げたイルカを、あんな男に渡すつもりは毛頭なかったのだ。
 里抜け対策も既に万端、イルカも時間を置けばやがて目を醒まして間違っていたことに気がつくに違いない。
 余裕の煙管をふかしたい気持ちを鎮め、火影は親族席に腰を下ろした。
 木の葉館の結婚式場はその特殊な事情ゆえ、ヴァージンロードは花婿と花嫁が共に歩くことになっている。
 火影も、友人一同も、教え子達も参列席から入場を待った。
ギィィ
 重厚な扉が開かれ、ゆっくりと四本の足が動き出した。
 花婿と花嫁の姿を確認すると、ある者は膝を打ち、ある者は笑いを堪えるのに必死になり、何も知らない者はただ純粋に祝福した。
 火影はというと、血圧が上がりすぎて失神寸前となり、密かに暗部に連れて行かれた。
 神前に二人が立つ。
 床はぴくりともしない。
 神父が二人に頷くと、例の文句を高々と読み上げた。
「誓います」
「誓います」
 満足そうな神父に促されると花婿は花嫁のベールをふんわりと持ち上げた。
 眩しいくらいの銀色の髪が露わとなる。
 そして二人――黒髪の花婿と銀髪の花嫁――は、微笑み合って唇を重ね、永遠の愛を神に誓った。



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