追うカカシ先生、逃げるオレ。
月明かりの下、桜並木の尻尾側から笑顔で手を振ってきてくれたカカシ先生がオレの右手のビニール袋を見るなり目を吊り上げた。
ディスカウントショップKONOHA――火の国全土のご当地ラーメンの揃う穴場店の名前がそこにはプリントしてある。
流れるピンクの壁、その上からカカシ先生と共にオレを追いかける流線型の月。
月に追いつかれることは一生ないのだけれど、カカシ先生には本気を出さないとすぐに捕まる。本気を出しても捕まる。
「アンタねぇ、俺がいない間ラーメンだけじゃなくちゃんと野菜も食べなさいって言っといたでしょうがッ」
「今日の昼までは守ってましたー!出来心、出来心ですッ」
カカシ先生は遠方の重要書類運搬任務に就いていて、本当なら明日の早朝帰ってくるはずだったのに。
そこではたと思い出しオレは足を止めた。ピンクの壁は桜に戻り、月はまんまるく太る。
振り返ればカカシ先生。怪我はなさそう、あったらオレと追いかけっこなんてしないだろうけど。
「おかえりなさい」
カカシ先生は月の光と同じ色をした髪の毛をガシガシと掻き毟って、一歩こちらへ踏み出してきた。
「ただーいま。・・・その一言に免じて今回は許すけど、次は怒りますからね」
「はーい」
夕ご飯は食べましたかと訊くとまだですとのことだったので、明日の朝出すはずだった鰆は今晩のメニューにすることにした。