隣人の出かける音、中忍寮の前を通り過ぎる里人達の挨拶を交わす声、スズメのさえずり。
それがイルカが起き出すと耳に入る全てだったのだが、一年前からそんな朝の仲間がもう一つ増えた。
微かな寝息。
その主は優秀な忍びだからの周囲の全ての音が止む狭間にしか感じ取れない、しかし確かにそこにある音。
空気を吸い込んで吐き出す流れが奏でる、生きている証。
白い病室でその音に耳をそばだてるだけの日々もあった。
目覚めると空っぽの隣に胸を痛める日々もあった。
その一つ一つが絡まりあって、今この朝がある。
起き上がってしばらくぼぉっとしていたイルカだったが、おもむろに布団から抜け出すとベランダへと出た。
キンと張った冬の空気に取り込まれ、吐いた息は存在を主張するかのように色を濃くする。
さすがにアンダーシャツ一枚だけでは風邪を引くかもしれない。
部屋に取りに戻ろうと踵を返しかけたイルカだったが、その動きごと抱き締める温もりが現れた。
「起きてらしたんですか?」
「今ね」
「カカシさんも長袖一枚じゃ寒いですよ」
「こうしてれば平気だよ」
業火のような恋をした時期もあった。
分かり合えない苦しさに投げ出したくなった時期もあった。
それでも。
「――そうですね、あったかいです」
今この朝がある。
ゆ○の曲っぽくなってしまったorz