くわーーっ。
カカシは持っていた本を伏せ大きく口を開いた。彼は犬使いだが猫のような欠伸をする。それがおかしくてついイルカは採点の手を止めて笑いそうになったものの、その前に彼の立派な欠伸に釣られて同じように眠気が口から逃げた。
「あ、うつったね先生」
「欠伸はどうしてだかうつりますねぇ。きっと空気感染なんですよ」
「不思議だね……くわぁ」
うつりうつってまたうつる。欠伸の連鎖は止まらない。
名高き上忍であるカカシと木の葉の内部情報を握る内勤中忍イルカは、立場こそ違えどどうしてだか馬が合い、暇のある時はこうして一つの空間で和んでいる。
二人は自分達の間柄を友人と呼ぶ。
こんなに仲良くなれる人が大人になってから見つかって嬉しいとカカシは喜び、気の置けないってこんな感じなんですねとイルカはしみじみ語る。
二人は食事を共にし、交互に湯を使い、布団を並べて同じ部屋で就寝する。
寝ぼけて隣の布団にもぐりこんでしまうことも多々あるが、二人は友人なので気にすることはない。「やけにあったかいと思った」「冬は一緒に寝ましょうか」などと軽口を叩き合う。
その内季節が巡って冬がやってきた。
小さな部屋に炬燵を出して、夜は一つの湯たんぽを二人で分け合うようにして眠るようになった。敷布団は一枚、掛け布団と毛布が二枚ずつの完全防寒だ。
おやすみなさいと灯りを消して、カカシは早々にうつらうつらと眠気を呼び込んでいたが、今夜のイルカはもぞもぞと落ち着きがなかった。
「どうかした?」
「んー……」
ピンとくるものがあって、カカシは悪戯な笑みをこっそり浮かべるとイルカの背後から下半身を手探りで握った。
「あ、まだ若いー」
えいっと両手で包み込んだそこは明らかに兆している。
「ちょぉっ、……だって最近ヌいてませんから、仕方ないです」
驚いてからイルカはバツの悪そうにもごもご答えた。股間を握るくらい男同士だからする。下世話な話を飛ばし合うことだってある二人だ。行動こそ初めてだが、変なことだとは双方思わない。
「確かに、最近俺達枯れてるんじゃないかってくらいまったりしてたからね。ん、おっきくなってきた」
話している間にイルカのモノがカカシの手の中でぐんと質量を増し、半分だけ勃起していた状態だったものがほぼ完勃ちといっていいサイズに成長した。
「だってカカシさん動かすから……っ」
「男の体だもんねぇ」
ヌいてあげようかな、とカカシはティッシュ箱を引き寄せようと身をよじらせたところで、自身の体の変化に気づいた。
「あ……」
そして背中でそれを受けたイルカも、察した。
「なんだ、カカシさんも勃ってる」
「あっれー、なんでいきなり?」
イルカの勃起したペニスを服越しに掴んでいたのが起因したのか、カカシのペニスも久し振りに膨らんで力を持ち始めていた。
カカシの手をさりげなく外すとイルカが寝返りを打ってチラリとカカシの前を見た。
「オレのがうつったとか」
「欠伸じゃないんだから」
そう言ったきり沈黙が狭い布団の中を流れる。窓の外にも、犬の鳴き声一つない。静寂だ。
下ネタをいくら交わそうとも、実際二人の男が一つの布団の中で股間を膨らませているというのは奇妙な状況だ。
カカシもイルカもこんなに生活に密着した友人はお互いが初めてだから勝手が分からない。
冗談で流したくても、勃っているものは収まってはくれない。
とにかくコレをどうにかすることから始めよう。
夜目の利く二人は月明かりの僅かに入り込む寝具の中で頷き合い、どちらともなく提案した。
「どうせなら、一緒にヌいちゃおっか?」
「そ、そうですね」
視線を逸らしながらイルカがズボンとパンツを太ももまで引き下ろすと、カカシが「汚れないかな?」と洗濯物の心配をした。そういえば明日の洗濯当番はカカシだ。
「じゃ、とりあえず布団の外に出しときましょうか」
「うん……」
おかしな雰囲気にしたくないのに、互いの隙間を埋め尽くすのはとっくにドギマギとした居心地の悪い空気だ。
生の足が触れるか触れないかの距離にあるが、隆起したペニスだけは存在を主張し刀のようにぶつかり合っている。小さな布団ではこれ以上距離も空けられない。
そして、今更引くに引けないのである。
二人の戦いのゴングが今、鳴り響いた。