『昼休みは共に過ごす』というのは実はオレからのお願いだったりする。
カカシさんは色々と特別なので門外不出のはずの屋上の鍵を所持している。
というか、初めて会ったのも実はここだ。たまたま放課後教室に残っていたらクラスメイトに屋上方面に行くように頼まれ、
偶然扉が大きく開かれていて、運命の悪戯か薔薇の花散るそこに横たわっていたカカシさんと遭遇した。そこが始まり。
後日クラスメイトに「すまん、本当にすまん」と泣かれたが意味が分からなかった。
交際を始めて数日後、「ね、恋人らしいことしようよ」と言われた。
当時は放課後しか会えなかったのが寂しかったので「お昼ご飯一緒に食べたいです」と答えたらカカシさんに
「ごめん、俺汚れてて本当にごめん」と泣かれた。やっぱり意味が分からなかった。
白い肌を流れる涙が落ちるのがなんだか勿体無くてつい舐め取ったら真っ赤になったカカシさんに唇にキスされた。
それが二人のファーストキス。その後なんだか知らないけれどしばらくカカシさんには『小悪魔ちゃん』と呼ばれた。
イチャイチャするのも喧嘩するのも仲直りするのも大抵この屋上なので、勿論お昼ご飯を食べるのもここだ。
「昨日パン屋さんが安売りの日だったのでサンドイッチにしてみました」
小振りでいろんな中身のサンドイッチを詰めた弁当箱を渡すと、予想通りカカシさんの表情はキラキラと輝き出す。
普段よりもちょっと早起きして作った力作だから分かりやすい反応がとても嬉しい。
「わ、美味しそう。それにちっちゃいのがいっぱいでカワイイ。それにカラフルでカワイイ。栄養バランスも良さそう! 超カワイイー」
カカシさんは褒める時に『カワイイ』を多用する。
語彙力が余りあるのはベッドの中で証明済みなのでまあ、癖なのだろう。
こういう女の子は同級生にもたくさんいるのでカカシさんも例に漏れずというヤツなんだと理解している。
「カカシさんこういうの好きでしょう?」
「うん。イルカ大好き!」
いただきますを合図にオレはハムサンドを、カカシさんはツナサンドを手に取った。
オレが一口で食べられるような大きさのものでもカカシさんは二口三口かけてゆっくりと味わう。
したがって自然とオレの方が食べる量が多くなってしまいがちなのだけど本人は気にしていないらしい。
でも下手に「もっと食べてください」などと忠告すると
「夜にイルカをいただくからいーの。なんだったら今からでも――――」とそっちの方に話題を運ばれてしまうので決して口にしない。
ばっちり経験済みだ(次の授業が地獄だった)。
「ね、イルカ」
「は、はい!?」
ついつい屋上に来ると思考が飛びがちだ。カカシさんはぷくーと頬っぺたを膨らませて不機嫌をアピールしている。でもぷにっと指で空気を抜いてあげるとすぐに戻るのでこれくらいなら大丈夫だ。
「やっぱり聞いてなかったー。放課後の話! 八百屋さんとお豆腐屋さんに寄るけど他にどこか行くところある?」
カカシさんは朝が弱くて朝食と昼食を作れないからと、代わりにいつも豪華な晩ご飯を作ってくれる。
登校前の冷蔵庫チェックはカカシさんの日課だ。だからオレは日用品や冷蔵庫の外の物の余分を頭の中をひっくり返して思い出す。
「あー……コーヒー豆がもう残り少なかったです」
「じゃあお茶屋さんか。帰り道のルート変えるから昇降口の前で待ち合わせね」
「分かりました。隣の和菓子屋さんでお団子買っていいですか?」
「イルカは食いしん坊だね。ふふ、いーよ。俺にもちょっとちょうだいね」
「もちろん! へへ、『秋道堂』のお団子タレが美味しいんです」
うきうき気分でサンドイッチにかぶりつく。醤油の香ばしい匂いが脳の中で再生されて、ヨダレがたくさん出てきた。
カカシさんは相変わらずちまちまパンを齧っている。お互いのペースでの食事は邪魔しないのが暗黙の了解だ。だけど。
「イルカー」
肩を叩かれたので素直に振り向く。頬にみちみちにサンドイッチが詰まってるから声が出しづらい。
「ふぁい?(はい?)」
途端、柔らかい銀の猫っ毛が頬をくすぐり唇が塞がれる。隙間から舌を入れられた。
「んっ」
「むっ」
何だか表現し難い味を押しつけられて、ビックリして口の中のものを全て飲み込んでしまった。
「マヨネーズが少しだけ多かったからイルカが食べてね」
カカシさんの方からは時々こうしてちょっかいを出してくる。どうも寂しいのが理由らしいので常軌を逸していない限り抗わないことにしている。
「カカシさん、細いのにそうやって節制するんだから」
「いつまでもこのままでいたいんだもん」
くすくす笑い合っていると予鈴が鳴ってしまったので弁当箱を閉じた。残りは団子と一緒におやつにしよう。
カカシさんと連れ立って屋上から降りる階段へ繋がる扉を開けると、喉に砂糖を詰まらせた女子生徒が数名倒れていた。いつものことだ。
また保健室に寄らなきゃなあとごちると、カカシさんは巡回に来るように頼んだから大丈夫と教えてくれた。
スーパーバカップルタイム