朝食は決まった時間にとりましょう

 カカシさんの寝汚さといったらそれはそれは凄い。
 何せ理性というものが半分飛んだ状態であるから、弁当を作り終えて起こしに来たオレを本能的に布団の中に引きずり込んであんなことやこんなことをしたあげく、ハッと目を覚まして言うのだ。
「イルカ……朝からすごいね」
―――誰のせいだ!
 覚醒したカカシさんは朝の五分がどれだけ貴重かを自覚した上で再び布団に潜り込もうとするから性質が悪い。
 今日もまたここまで最早テンプレートとなった行動を一通り終えて、もぞもぞと布団の花園の奥深くに消えてしまった。
 同じ男とは思えないほど白くて艶やかな脚が覗く。キャミソール一枚では風邪を引くと言い聞かせているのだけれど、なかなか聞き入れてはくれない。 「イルカに可愛いって言って欲しいからこうしてるの!」とぷくっと膨らませたほっぺた付きで主張されれば、それ以上強く言い募ることも出来ないし、困ったものだ。
 ひとまずカカシさんは放っておいて朝の準備を進めることにした。
 簡単だけど野菜を中心とした朝食を作り、洗濯機を回して(なんと全自動)身なりを整える。
 そろそろ食事にしないと遅刻してしまうのに、まだ起きない。
 この人はとてつもなく頭が良い人なのだけど、オレと暮らす前までは遅刻癖のせいで大抵午後にならないと学校に来なかったらしい。 テストのオール満点と、理系分野のコンクールでの最優秀賞総ナメという輝かしい成績から退学にもならず、一般的な学生生活というものから二百海里離れた生活を送っていたそうだ。
 飛び級も再三薦められていたのだが、セーラー服が着たいから三年間高校には通うことにしていたとは本人の言。
 うちの学校はブレザーですよというオレの言葉は流された。
 そんなかなりの変人と平凡なオレがどうして同居(カカシさんは同棲と呼んでよ!とひどく怒る)しているのかと言うと、 「ケッコンヲゼンテイニシテイルウンメイニミチビカレシコイビトドウシハイッショニクラスモノ」というカカシさんの宇宙語のせいだ。 波風理事長や猿飛先生を始めとした先生方、そしてクラスの枠を超えた学校中の生徒ほぼ全員に血走った目で一緒に暮らせと迫られたらオレも頷くしかない。
 紆余曲折ありつつも結局好きでくっついた者同士だからこうして世話を焼くのも苦ではないのだけど、さすがに毎朝だと若干疲れてしまう。
 引っ張り出すのはもう無理だ、出てきてもらおう。オレはプライドを捨てることにした。出来るだけ弱弱しい声色を心掛けて。
「カカシさんは朝飯オレなんかと食べたくないですよね、スミマセン。作ったのもオレだし……出掛けた後、捨てちゃって構いませんから」
 そこからはビデオの早送りを眺めているようだった。
 布団を放り出したカカシさんは制服一式を掴んで洗面所に駆けて行ったかと思うと、一般家庭にあるまじき騒音を立てて数十秒後にはきっちり身なりを整えて食卓についた。ご近所には学校から帰ったら謝っておこう。
「イルカのご飯じゃないともう俺喉通らないから!それに、一緒に登校するんだからね!」
 イタダキマス、と叫ぶとカカシさんはフォークをサラダに突き刺して、げっ歯類の小動物の如きスピードで咀嚼を始めた。いつもこうなら楽なのになんて思いつつオレも命の恵みをいただく。
 今日は一日良い日になりそうだ。
 その第一歩として、今日はいつもよりも素直になって手を繋いで登校しよう。スカートをはためかせる恋人と寄り添って。

某企画用に書いて流したものです。 この夏はJKが熱い!


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