【おぱんちゅの日】

「タットッバ、タトバッタットッバー♪」
 太陽の光が燦々と降り注ぎ、空気はカラッとしていて心地いい。そんな今日は絶好の洗濯日和だ。
 俺とカカシさんの二人分、しかも昨日までの雨で洗えなかった数日分の衣類を庭に干すとかなりのボリュームとなりそうなので、カカシさんが寝ているうちからの作業となる。
 おしゃれ着やデリケートな服なんてお互い着ないから、洗濯機にポイポイと服の山を放り込みスイッチオン。あともう一回洗濯機を回さなければ終わらない。
 そういえばこの服の時、オレ達着たまま――――
 二日前の情事が思い出される。いきなり盛り上がったカカシさんが後ろからオレの首筋に顔を埋めて、その、にゃんにゃんしたわけだ。
 ごうんごうんと唸る機械の真横で、慌てて小山の点検を始めた。シミになっていたら落ちないから先に手洗いをしておかなければ!
「これは平気、うーん、これちょっとイカ臭いかも。でもシミはない、と」
 一枚一枚開いて臭いと汚れを確認していると、薄い布がパサッと床に落ちた。
 ハンカチかな? でもそれにしては素材と、か……
 持ち上げて開いて、オレは驚愕した。
 目の前にはほとんど隠す機能を持たない、いわゆるセクシーランジェリーのパンティが一枚(黒の凝ったレース)。近くを漁ると同じ細工のキャミソールも発掘された。
 浮気。
 もうその二文字しか浮かばなかった。
 この洗濯物の層は大体二、三日前のものだ。オレはカカシさんに昨日も一昨日も抱かれた。つまり今ベッドの上でアホ面下げて眠っているあの男はオレを好きだの愛してるだの言って体を好き勝手しながら、他所で他の女を抱いていたことになる。ここにその下着があるのは相手の女のオレへの当て付けだろう。
 悔しくて仕方がない。涙が込み上げてきたが歯を食いしばって耐えた。
 本気で愛していた。どんなに短い間でも一生を共に歩みたいと心の底から願うくらいに。
 しかしそんなオレはただ弄ばれていただけだった。もしかしたら誰かと笑ってたのかもしれない。
 かなり変態だけど、そんな要求をされる度口では嫌だと言いながらも愛されてると思えて嬉しかった。彼の女性との噂でそんな変態的な内容は聞かなかったから、本当にしたいことをぶつけてくれているのだと。
 全部嘘。
 いつの間にか脱水に移行した洗濯機をそのままにオレはランジェリーを握り締めたまま寝室へと向かった。
 ここはオレの自宅だ、出て行くならヤツの方。
 火遁をぶつけてやろうか、それとも水遁?
 ブツブツと印の確認をしていたら、下着を握った右手を背後から取られた。
「イルカ先生、それ……」
 起きてやがったか。寝起きの少しガラガラした、セクシーなこの低い声も聞き納めだ。
「そうですよ、これは――――」
 あんたの浮気の証拠です、そう続けようとしたのに。
「着てくれるんですね!!」
「は!?」
 抵抗する隙もなく裸に剥かれ、あれよあれよとセクシーランジェリーを着けられ、シーツの上に転がされた。ただでさえ異常なのに、前がレースの布切れの中に収まらなくて羞恥心が酷い。
「や、だ。なんでこんな……」
 腕を頭の上でまとめられているので太ももを捩って隠すしかないのだけど、下手すると食い込んでしまいそうで思うように行かない。
「んふー、洗濯物の中に隠しといたんです。後で出そうとしたの忘れちゃって。あ、タグ取ってないや」
 カカシさんはパチンと指だけで器用にプラスチックのタグを外した。
 あ、これ新品だ。
この人自分で買いに行ったのか……?
「いつ言おうかって狙ってたんですけど、まさか持ってきて迫ってくれるなんて予想外でした! イルカ先生予想GUYですね!」
 えへ、と笑うカカシさんはいつもの、変態だけどオレのことが大好きでたまらないと告げる彼。
 この人が誰かとオレをからかうなんてことありもしないのに、つい頭に血が上ってしまっておかしなことを考えてしまった。
「似合ってます、やっぱり黒ですね。でも白も今度買ってきますから」
 鼻の下を伸ばすカカシさんをじっと眺めて、オレは身を捩るのを辞めた。
 勝手に思い込んで疑ってしまったし。
「えっと、抵抗しないの?」
 普段の、嫌がるオレを押さえつけるプレイになれているカカシさんは力を抜いたことに不安を覚えたようで、その下がった眉がおかしくて少し声を出して笑ってしまう。
「して欲しいんですか?」
「いえ、しても続行なんですけど……」
 タイミング良く洗濯完了のお知らせ音が鳴った。目で「行っちゃうの?」と訴えかけてくるのが寂しがり屋の子犬みたい。
「今日は天気も良いし、カカシさんが洗濯してくれるなら……」
「い、いるかせんせーーーーー!!!」
 ボフンと影分身が一人駆け出して行ったのと、カカシさんがオレに覆い被さってきたのはほぼ同時だった。


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