※アスマ視点
信じたくもないというか、本音を言わせてもらうと脳に情報を送るのさえ拒絶したいことなのだが、どうもカカシの野郎がイルカに懸想しているらしい。
里内に地デジ対応イルカアンテナを張り巡らせ、西にイルカにちょっかいを出す者がいれば行って全てのズボンとパンツを燃やしてやり、東にイルカに恋する者があれば写輪眼で記憶を操作しているのだそうだ。
一日三回の会話と二時間の護衛という名のストーキングと少しの変態行為にいそしみ……いやもういいか。
とにかく骨抜き状態でどうにかなっちまってるわけだ。
それを雑談の中で伝えると紅は「夏はこれよ!」と叫び部屋から出てこなくなった。
まったくどいつもこいつもめんどくせぇ。
めんどくせぇランキング不動の一位の男と関わり合いになりたくなかったので、「これ以外俺の持ってる情報はない」と断ってアルバムから抜いたイルカの幼い頃の写真をくれてやったら、鼻血を噴いて三日入院した。
ヤツの任務がどんどん俺に回ってきた。余計めんどくさかったがもう諦めた。
そんなカカシが今、アカデミーの廊下でイルカと会話している。
俺はというとこの廊下の先の資料室に用事があったのだが、近寄りたくないので踵を返すところだった。
ところが妙に上擦って緊張したカカシの声が鬱陶しいことに耳に届いてきやがる。
「き、昨日はごちそうさまでした!お礼に今日は俺の家で飲みませんか?」
「いいんですか!? 嬉しいなぁ」
カカシが自宅に誰かを招くところなんて始めて見た。これは相当本気だ。
頭ではさっさと戻らなければと分かっているのに体が動かない。自分の出歯亀根性が憎い。
「俺の家もイルカ先生にならってウェルカムドリンク導入したんですよ」
「おおー、どこのスープですか?」
ウェルカムドリンクの話で何故スープの話が出てくるんだ。いや、突っ込んだら負けなのか。
「いや、ラーメンスープじゃイルカ先生に勝てっこないのでオリジナルで。ちょっと大人味です。粘性があって、でも慣れれば平気ですから」
嫌な予感がしてきた。というか、嫌な予感しかしねえ。
「へえ、オリジナルってことはお手製ですか?」
カカシは額宛の上から伸びる銀髪を照れたようにガシガシ掻き毟って言った。
「恥ずかしながら直搾りです」
「わぁ、新鮮なんですね。楽しみです!」
逃げろ、逃げろイルカ。それは罠だ!ていうかアレだ!
心の中ではそう叫びつつも己の身が大事な俺は、嬉しそうに微笑むイルカの横顔を、ただただ見つめることしか出来なかった。