カカシは一本足を巧みに操って仕事場を離れる。
目指すは広大なる海。
雇い主の狐の三人家族には一週間の休日を貰った。
山をくだる、どんどんくだる。
「そうか、もうこの季節か。気をつけろよカカシ」
森が追い風を呼んでカカシを森の出口まで送り出す。
「いってらっしゃいカカシ、あの子によろしくね」
小鳥が旋律を奏でてカカシを祝福する。
カカシは行く。どんどん進む。
一日目は山の中腹で「火」の字が入った笠を被った地蔵の隣を借りて眠り、
二日目は山の裾の道の途中で一人で彼を思って星を見つめ、
三日目はどこだか確認する前に意識が飛んだ。
もうすぐミルキィウェイが流れる。明日ミルキィウェイが現れる。
真っ暗な海にミルキィウェイが落ちてきたらその時が。
体の芯が軋んでもカカシは進む。
地を抉り木陰で休む。
栄養豊富な土が徐々に潮の香りを含む砂へと変わってきた。
もう少し。
燃える日が海の底で眠りにつく前に目的地へ到着した。
もう少し、あと少し。
雲はない。
森が引き受けてくれたから。
小鳥が運んでくれたから。
地蔵にお願いしてきたから。
やがて暗闇が地を覆い――――
「カカシィーー!!」
「イルカッ!」
一年に一度の逢瀬は何も織姫と彦星に限ったことではない。
山の者と海の者がたった数刻交わることを許されたのもまた、七月七日のこの夜だけだ。
「一年分の話をしようね、何から話そうか。ずっとイルカに話したかったんだ」
「オレも!カカシみたいに綺麗な貝を見つけたこととか、それにね、えっと……」
空から降り立ったミルキィウェイが、再び空に帰るその時まで。
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「カカシとイルカは山と海の神様だから、俺達の生活のために山や海を治めなきゃいけないの。だから年に一度会うことしか出来ないんだねー可哀想に。お前らも感謝すんのよ」
カカシは絵本を閉じて部下達の頭を一人ずつくしゃりと撫でた。既に三人とも顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「うっうっ、可哀想だってばよ」
「私短冊にせめて二人が会える日がもう一日貰えるようにお願いするわ!」
「写輪眼の力でも助けられないのか……」
カカシの片方だけ覗く右目は満足げに弧を描いている。優しい声色でもっともらしく本来の目的を言い放った。
「だからね、せめて現実にいる俺とイルカ先生が長い時間一緒にいられるようにいろいろ協力しなさい。むやみやたらに先生の家に遊びに行ったり一楽に連れてって貰ったりするのも控えること。分かった?」
純粋な子供達がこくりと頷いたことで、今夜から先のイルカの(主に夜の)運命が確定した。
イルカがカカシのベッドの下から絵本を見つけ七班の子供達の洗脳を解くのはしばらく後の話である。