問1:貴方は今からはたけカカシです。
今日もいつも通りイルカ先生のストーキングに励もうと意気込んで報告所に行き、1時間粘って口説き落としたところ、見事定時である5時から食事をする約束を取り付けました。
貴方はイルカ先生大好きなはたけカカシなので、待ち合わせ時間まで3センチほど宙に浮いたり、意味もなく火影岩の上で咆哮を上げたりと落ち着きません。
きっと今まで読んだ薄い本の内容を頭の中でひっくり返し「今回は○○さんのあの本の設定で」と期待と股間を膨らませていることでしょう。
ところが、約束まであと僅かという頃にイルカ先生から式が届きました。
なんと残念なことに定時に帰れなくなったということです。
その理由は何でしょう。
引き続き
問2:貴方はバスの運転手です。
今運転しているのが本日の最終バスで、中には10人の客が乗っています。
1つ目のバス停に止まると髭の大男と美女が連れ立って降りました。
2つ目のバス停では誰も降りず、また誰も待っていませんでした。それでも貴方は待ち続けます。しばらくすると息を切らせて黒髪を頭の上で括った男性が駆け込んできました。
貴方はそれを横目でチラリと見ると、発車させます。男性は運転手に頭を下げると、揺れるバスの中、車両中部に移動し腰掛けました。ふわりと漂う汗の匂いに制服の下の胸が高鳴ります。
3つ目のバス停で5人の大学生風の集団が降り、2人の緑タイツの男性が乗り込むかと思いましたが、「いや、俺達は走るぞ! なあリー!」「はいっ!」と踵を返し夜の道を駆け出しました。慌てて猫目の男性が追いかけるように駆け下り、それにヘソ出しの青年が続きました。
貴方はサイ→ヤマ→ガイという可能性を浮かべ必死に頭を振りつつ、またバスを発車させます。ちなみに黒髪ポニテの男性(いつも終点で降りるうみのイルカさん)はすやすやと眠りの世界に旅立っています。彼の睡眠を妨げないようにゆっくりとアクセルを踏みました。
4つ目のバス停で2人の酔っ払った女性が乗車して、大声で歌い始めました。このままではうみのさんが起きてしまいます。由々しき事態です。この最終バスで乗車拒否をする訳にもいきません。貴方は仕方なく口頭注意をするに留めて出発しました。
5つ目、6つ目のバス停には誰もいませんでしたが、酔っ払いの女性の片方が「あら、人いるじゃない。乗らないのかしら」と恐ろしいことを呟きました。そして「やっぱり乗ってきたわね」という言葉を残し1人で降りて行きました。目に見える人間は誰も乗ってきていません。
7つ目のバス停でもう1人の女性と、サラリーマン風の男性が降りました。
次のバス停が終点です。
さて。
バスに残っているのは何人でしょう、というちんけな問題ではありません。
残っているのは貴方と、貴方が密かに思いを寄せているうみのさんです。まだ寝息を立てています。普段終点までいるはずの猫目の男性は何故か早々に降りて行ったので、これが初めての二人きりです。
貴方はバスを止めて彼に近づきました。バスの床は靴音をコツコツと反響します。静かな車内、心臓の音まで伝わってしまいそうです。
ふっくりと膨らんだ唇が誘うかのように半分開いています。そこから甘い、貴方の心を掴んで離さない匂いが漂うのです。前が否応なしに膨らみ、下着ごと制服を押し上げました。
貴方は堪らなくなって、彼の両頬を挟みました。そして自分が手袋をしていることに気づき歯で咥えて引き抜きました。
指が冷たくなって震えます。毎日運転手と乗客としてすれ違いますが、会話といえば乗車時の「いつもありがとうございます」という温かい言葉だけ。だけどそれは、貴方を恋に落とすには充分でした。
名前は、彼の電子マネーカードに記載してあるのを偶然目にしました。普段は恥ずかしいのでうみのさんと呼んでいますが(それも心の中で)、時々気分が盛り上がった際に、イルカさん、と胸の中で呼ぶだけで全細胞が喜ぶのです。辛い仕事も今では毎日楽しみです。
生活に色が着きました。平坦な人生にときめきが生まれました。
好きで、好きで、好きで。
両手で引き寄せ、無防備な唇にそっと己のものを重ね合わせました。全身に甘い痺れが走ります。
もっとと体が欲しがるのを押さえ込み、貴方はバスを発進させました。
終点まで僅かでもこの空気を味わうために、安全運転を心掛けます。
それでも時間は進むもので、最後のバス停に到着しました。本心は、家まで送り届けたいことでしょう。
コツコツ、と再び彼の元へ歩きます。今度は震えません。あのこそ泥のように奪ったキスを、貴方は一生の思い出として大事に温め続ける覚悟をしたのですから。
「お客さん、着きましたよ」
数回揺り動かすと、「ん……」と悩ましげな声を出してうみのさんは瞼を持ち上げました。
周りを見渡して状況を把握したのか、いつものように「ありがとうございました!」と頭を下げて下車します。
その背を見送った貴方は、自分の唇に人差し指を押し当てるとそのまま運転席に戻りました。
一方その頃ほてほてと暗い夜道を歩くうみのさんは、首から上を真っ赤にして先程の信じられない光景を思い出しては恥ずかしさに悲鳴を上げそうになりました。
綺麗な顔をした、ぶっきらぼうだけど優しい帰りのバスの運転手が、彼に口づけをしたのです。
頬を挟まれ、引き寄せられました。薄く目を開いて覗いてみると、至近距離に銀色の長い睫毛を畳んだ運転手さんの顔がありました。
押し当てるだけの口づけは数秒続いたでしょうか。その後、どうしたらいいのか分からなくなったうみのさんは寝たふりをする以外できませんでした。
人差し指で唇の感触を確かめます。特に秀でた点もない男の不恰好なそれを何度も押す内に、運転手さんの唇の感触を思い出して地団太を踏みました。
ここで問題です。
キス1つでうみのさんをここまで混乱させる、魔性のバスの運転手の名前は?