その時一番のおかいもの

 傷を負った仲間をかばいながらなんとか敵の数を減らしてきたけれど、体力がもう限界に近い。
 武器も札も尽きて、万事休すだ。ただ、手持ちに関しては相手も同じらしい。途中から肉弾攻撃と忍術だけに切り替わった。長引かせた自分を褒めてやりたいくらいだ。
 こうなったらこの命を奪おうと寄ってきた瞬間に賭けるしかない。
 喉笛に食らいつく。
 一人でも減らさなければ。駄目ならせめて、すぐには癒えない一撃を食らわせなければ。
 虎視眈々とその時を待つ。
 敵忍は殺気を隠すことなく、草をかき分けて近づいてきた。踏み越えられて茎の折れる音すら開けっぴろげだ。もうこちらが逃げられないことを知っている捕食者の余裕に歯ぎしりすることさえ許されない。
 あとはオレと、オレが持たれるこの大木の向こう側に気絶している仲間の命を作業的に絶つだけ。
 さあ来い。残る敵はおそらく三人、一人潰せれば、オレ達がまんまとはまった奴らの連携を崩せるだろう。
 オレの死んだ後は、他の仲間に託すしかない。
 本陣にいる仲間が速やかにこの手強い忍び達を排除してくれることを願うばかりだ。
 気を抜けば呼吸音を立ててしまいそうになるのをぐっと抑え込んで、動悸も全神経をフル稼働させて鎮める。
 生きているか死んでいるか、この胸に耳を寄せないと判断できないように。
 そして晒された首を、狙う。
 カサリ、と敵が枯葉を踏み締めた。産毛の先まで無反応を決め込む。
 相手だって手練れだから、安易には噛みつかせてくれないだろう。こればっかりは全身全霊をかけて死んだと思わせるしかない。
 顎と、上半身の瞬発力。そこにだけ、カスのように残った体力をかき集める。
 ひそひそと、意見を交わし合う様子が感じられる。
 ボロが出るのを待っているのだろう。そうはいかない。
 ひたすらじっと堪えた。人形のように四肢の力を抜いて。余計なチャクラを使うのを控えるだろうから、絶対に直接この心臓か、そうでなければ喉を狙ってくるはずだと信じて。
 どれだけの時間だったろう。
「急ごうぜ」と誰かが言った。
「ああ」と誰かが答えた。
「どうする? 放っとくか? 死んでるだろ」
「一応確かめてからな。万が一があると困る。かといって余計な体力も使いたくない」
「梃子摺らせやがって、こいつ」
 憎々しげに呟いた男が、オレのくくった髪を引っ掴んだ。重力で頭皮が突っ張る。力を加えないと首の骨が折れそうだが、そうするとバレてしまう。どうするか。
 とにかくギリギリまで耐える。ここまで我慢したのだから。
 男達はまだ相談を続ける。
「お前やるか?」
「おう。何しろ左腕をやられたからな」
「じゃあ――――」
 どさどさどさっと三つ、重たいものが落ちる音がした。
 オレも前のめりに倒れた。支えるものがなくなったからだ。
 草の汁に交じって明らかな血の臭いが広がる。
 つい先程までそこにあった命が消え失せた。
 その代わり、突然一つの光が。
「ねえアンタ」
 その光はオレの髪を撫でた。人の、血の通った指だ。
「頑張ったね。後ろの彼も生きてるよ」
 瞼が上手に開かなくて、その人を光としか認識できない。眩しい。温かい。
「ちゃんと里に帰してあげるから」
 何かの拍子に光が少し収まって、その人の顔を一瞬見ることができた。
 顔の半分は口布で隠されているけれど、鋼色に縁取られた濃藍の瞳は優しく弧を描き、オレを見ている。
 すぐに忍びの顔になって応援を呼び出すと光の人は行ってしまった。
 だけど。だけどな。
 それ以来脳が、瞼の裏が、耳の奥が、この胸の高鳴りが、撫でられた皮膚が。
 一秒たりとも彼を忘れない。

*****

 布の隙間から漏れ入る日の光であの人を思い出したかと思えば、突然吸い込まれるように意識が肉体と一体化した。
 そこは本陣のテントの中だった。せかせかと忙しなく働き回る背中に声を掛けると、大袈裟に喜んで医療忍を呼んでくれた。診察が終わった後話をしてみると、あの時樹の後ろに倒れていた仲間で、ずっと看病していてくれていたそうだ。
 やっと起き上がったオレにそいつはいろいろ教えてくれた。
 オレは体のあちこちを骨折していたせいで意識もなく、熱がなかなか引かなかったこと。
 諦めずにかばい続けたオレにとても感謝していること。
 あの時の交戦がきっかけとなって火の国優勢のまま戦争が終結しそうなこと、そして。
 オレ達を助けてくれたのが、あの有名な上忍『はたけカカシ』であること。
「お前が寝てる間はたけ上忍一回見舞いに来たぞ」
「嘘っ!?」
 うっかり前のめりになろうとして、余りの痛みに顔が歪む。動くなよと注意を受けながら、大人しく胴体に包帯を巻かれる。
 テーピングの要領で怪我をした全ての部位をサポートするには時間を要する。
 その間にちゃんとはたけ上忍の様子を聞かせてくれた。
「俺も緊張してうまく話せなくてさ。でもお前の熱が下がり始めたって伝えたらホッとしてたみたいだった」
「そうか……」
 あの弓形の目を向けてくれたのだろうか。
 もう一目だけでも、せめて。
「痺れるよなーはたけ上忍!」
「ああ、そうだな」
 動けるようになるまで療養しながら、オレはひたすら考えた。
 吊り橋効果だろうがなんだろうが、オレは彼に惹かれていることに相違はない。
 しかし、予想以上にその相手は高みすぎて、余程の幸運がない限り二度と相見えることはないだろう。
 はたけ上忍は戦を渡り歩いていると聞く。陣内の噂では、既に次の戦場に行く準備をしているとのことだった。
 戦場で助けた中忍のことなんて忘れてしまうに決まっている。
 この怪我では次の戦いに立候補したとしても選考から弾かれてしまうだろうし、それに。
 オレはこの任務を最後に、教師見習いとしてアカデミーに入ることになっていた。
 自分の希望でもあったし、三代目からまだ幼い赤子であるナルトが将来アカデミーに入学する際の担任を任されたこともある。
 ナルトが入学するまでの数年間、人よりも濃い経験を積まなければならないため放棄はできない。
 ぐるぐるとずっと考えた。
 本当は心の隅っこで、もう一度はたけ上忍が訪れてくれればいいのにと期待したけれどそれは叶わなかったから。
 教員補助として働き始め、内勤の仕事をこなす内に、あるアイディアが一つ浮かんだ。
 途方もない計画だ。
 だが自分の外見的魅力とかそういうものを総合すると、悲しいかなそれ以外に思いつかなかった。
 そのために、三代目火影の息子・猿飛アスマ兄ィを飲みに誘って探りを入れることにした。
「ぶっちゃけ上忍の指名任務って幾ら貰えんの?」
「おま……っ、忍びならもっとうまくだなぁ」
 アスマ兄ィが傾けかけたグラスを寸でのところで平行に戻して、説教モードに切り替わった。
 大分出来上がった者も多い居酒屋で喧騒を背に、カウンターで二人並ぶ。
 中忍に昇格した時も、そういえばここに連れてこられて酒を飲まされたなぁ。
 丁度、兄ィが里に戻ってきた時期だった。
 それ以来、飲む時は何も言わなくてもいつもここだ。
「どうせ気づくじゃん」
「まあイルカだしな」
 むきーっって暴れたいけどここはぐっと我慢して、「やだなあそんなえへえへ」とヘラヘラすることに徹した。それでも訝しげな視線を向けるので、口の中にビールを瓶ごと突っ込む。常人なら咽たりするけど、アスマ兄ィは余裕で飲み干すから安心だ。
「お前が金のこと言うなんて珍しいよな。上忍になるつもりか?」
「いや、オレは教師一筋で生きるつもり」
 本当は適当に頷けばよかったんだろうけど、嘘でもそれだけは言いたくなかった。
 自分の実力の限界は嫌というほど理解しているつもりだ。
 アスマ兄ィもそこを深く突くほどしつこい人間じゃない。
「ふーん……まあいいや、今後のためにも教えてやるよ」
「ほんと?」
「まあ、金が全てじゃないが知ってて損な情報でもないしな。まず上忍の指名任務の場合、手取りは六割で一般の割り振り単独任務よりも値はざっと三倍になる。ここは知名度や実力によっても大分変化があるから、まあ最低ラインってことだ」
「さんばい……」
 上忍になった同期の一回の給料を耳にしたことがある。危険なだけあって中忍時代よりも一気に跳ね上がっていた。指名となると当然値が吊り上るだろうとは踏んでいたが、そこまでとは予想していなかった。
 アスマ兄ィはオレの顔色が変わったのを承知の上で、更に情報を付け足した。
「俺もまあ、里を出ている間につまんねえ肩書きやら何やらつけたから、もっと上だな」
 いつ注文したのかウイスキーのロックをごつごつした手の中で揺らして、半分くいっと呷っている。氷がカランと溶ける前に飲み終えてしまいそうなペースだ。どうやら、ツマミは箸の進まなくなったオレらしい。悪趣味め。無理にでも食べてやろうと、アスマ兄ィの注文したあさりバターを狙ったのだが。
「残念ながら俺はカカシが幾ら貰ってるのかは知らねえよ。給金の話は上忍同士の間じゃタブーだ」
 かぱっと口を開けた貝殻が鉄板の上に転がる音をどこか遠くで聞いた。
 それからアスマ兄ィは固まったオレをよそにじゃんじゃん杯を重ね、「ま、手柄祝いだ」と全部支払い夜の街に繰り出して行った。
 そこからどう帰ったのかはいくら首を捻っても記憶にない。
 だけどひたすら電卓を叩いたことは覚えている。そして、誓った確たる決意も。
 オレははたけカカシを、一晩買う。
 どんなに時間がかかっても、金を貯めて買う。

*****

「節約王にオレはなる!!」
 コピー機の唸る職員室で高らかに宣言したオレに世間の反応は冷たかった。
「ラーメンやめろ」
「ラーメン断て」
「一楽通うのをまずやめないとな」
 唯一ヒナノ先生という女性教師だけは、使わなくなったという節約料理のレシピ本を譲ってくれた。でもやっぱり彼女も「ラーメンやめてこの本のご飯で生活すれば大分浮くわよ」とあくまでオレにラーメンからの脱却を勧めるのだった。
 実際、そのレシピの本は美味しいし貯金も貯まったけれど、日に日に心の隙間が開いていく。
 テウチさんと顔を合わせるのが辛くて帰り道のルートを変えたりもした。
 同僚に相談したら失恋した女子生徒と行動が似ているとからかわれ、話に尾鰭がついて数日後にはオレがテウチさんに叶わぬ片思いをしていることになっていた。何たること。
 その後火影様がラーメンを食べに行こうと誘ってくださった時など、テウチさんとその娘のアヤメさんとの距離がなかなか縮まらなくて一層困り行き辛さが増した。
 特にある日アカデミーの門の外にアヤメさんが立っていて、「お父さん、やっぱりお母さんが好きなんです。でもイルカ先生が食べに見えないのも辛いみたいなんです。私もう、見ていられなくて……っ」とさめざめ泣かれた時なんか土遁使ってでも逃げ出したいくらいだった。
 それでも何とか誤解を解いて、月に一度食べに行くことで折り合いがついたのだが。
 せかせか節約と慣れない仕事に励む一方、空いた時間には体を鍛えることを兼ねて任務を受けた。単なるお使いではなくて、相応のリスクが伴うものだ。
 オレ程度だと単独任務が舞い込んでくることは少ないので、セルを組んで行くものが多い。地道に続けていると、顔も広がる。
 知り合いが増えたオレに、受付任務の誘いがきた。日単位で拘束される外の任務と違い、時間単位で働ける。断る理由はなかった。
 内勤は給料が少ないと思われているし、実際時給換算したら低いのだろうけど、コンスタントな収入は利点が大きい。それに、やってみて初めて知ったのだが、意外と外回りの忍びがお土産をくれて甘味代が浮く。
 顔見知りは更に増大した。任務をコツコツやっていたのが功を奏し、評判も上々だった。飲みに誘われることが増えたのが誤算だったけれど、数回に一度受けることにしてやり過ごす。
 通帳を覗くと、はたけ上忍の輪郭がくっきりしていくようで嬉しかった。
 雀の涙のような額をコツコツ貯金に回す。どんなに罵倒されても受付では笑顔を崩さない。月に一度のラーメンを泣きながら食べる。生徒達一人一人が立派な忍者になれるように教師と授業の組み立てを考える。参加した飲み会ではストレスをぶちまけるように酒を飲む。夜遅くまでひたすら書類に向かう。
 胸に刻み込まれたはたけ上忍の笑顔を毎晩夢に見る。
 そんな生活を続けている間に、とうとうナルトがアカデミーに入学してきた。
 そりゃもう風当たりは強い。
 にこやかさなんて、皆忘れてしまったかのように。
 吐かれた唾を掃除するための雑巾とバケツはいつも足元に準備していたし、今まで仲良くしてきた人々も遠巻きになった。書類をばらまかれないようにボックスはチャクラ感応式にした。
 ナルトの悪戯に真っ向から立ち向かいながら、まっすぐに育つように手を尽くす。
 寂しさを隠すために道化を演じるナルトは、夕暮れと共に家に消える。
 通帳を眺めても心が晴れず、はたけ上忍の顔にもやがかかるようになってきた。
 ナルトのために労力を惜しむつもりはない。いくらだって頭を下げるし、理不尽なことも耐える。
 だけど、それだけでナルトを救えるか?
 奔放な昼間のナルト、放課後の暗い表情のナルト。
 オレが手を伸ばすべきなのは、むしろ。
 腹筋だけで起き上がって銀行のATMに走る。札を引き出した。給料日までの間に紙幣を引き出したのは何年振りだろう。
 ナルトの家は知っている。アパートで、やせっぽっちな子供は一人暮らししている。
 訪れるのは火影様だけ。
 跳び上がって、窓の外の小さなベランダにへばりつく。
 ノック三回。ガラス越しにひょこひょこ動くひよこ頭が見える。
 ナルトが鼻と口から牛乳を噴出した。こいつ、直飲みしてやがる。
「い、イルカせんせえ!?」
 声がくるりとひっくり返るナルトに、オレはありったけの甘さを込めたイケメンボイスを聞かせてやった。
「よおナルト、ラーメン食いに行くぞ」

*****

「テウチさん、醤油ラーメン二つ」
「イルカ先生珍しい、一週間前にきたばっかりなのに!」
 アヤメさんがニコニコとオレとナルトの前にお冷とおしぼりを置いた。テウチさんはナルトを見て少しびっくりしたようだけど、すぐに「あいよ」と鍋に向かう。
 ナルトはこのような外食が初めてなのか、忙しなく店内を見渡している。
 壁に貼られたメニューを口の中でボソボソ呟きながら、頬を紅潮させていた。
 オレが子供で、まだ父ちゃんと母ちゃんが生きていた時代、外食に連れて行ってもらうことは年に数回あった。
 家族があった頃の思い出だ。
 だけどナルトにはそれがない。
 なければ、作ればいい。
「今日は醤油ラーメンだけど、他のも美味ぇからな」
「お、おう」
 オレが表面に汗をかいたお冷をくいっと飲み干すと、ナルトも真似をしようとした。けれど、その手がグラスに触れる前に固まる。
「どうした? 飲んでも言えばお代わり貰えるぞ」
 ふるふるとナルトが首を振り、言った。
「俺、これ触っていいってば?」
 店の中が水を打ったように静かになった。
 お湯の沸騰する音。言葉をなくしたアヤメさん。この里が、この小さな子供に与えた傷に打ちのめされるオレ。本気で悩んでグラスを見つめるナルト。
 何か言おうとした。「気にすんな」とか、そんなこと。だけど言えなかった。
 口が重くて動かない。オレは教師なのに。
 無理矢理にでもその手を取って飲ませてしまおうかと、右腕がピクリとその考えに反応して、力をなくす。
 静寂を破ったのは、勢いのある湯切りの音だった。
 ジャッジャッとテウチさんが腕を振り下ろす。
 脂を浮かべたスープに、ちゅるんと黄色い麺が飲み込まれる。
 熟練の技のトッピングで飾られた昔ながらの器を両手で掲げ、それはカウンターの上に置かれた。
 湯気を挟んでテウチさんとナルトが向かい合う。
 そして。
「食え、坊主。美味ぇから」
 アヤメさんがナルトの隣に駆け寄って割り箸を差し出した。歪に割れた割り箸を握り込んで、ナルトが麺を啜った。スープが跳ねて、服に染みを作っていることなんて、最早どうでもいいことだ。
「うんめえ!」
 ナルトが笑った。
 テウチさんもニカッと歯を剥き出しにする。
「当然だ!」
 オレも、恥ずかしながら便乗する。
「そりゃそうだ、何たってここのラーメンは五大国一の絶品だからな。たんと食えよ、ナルト!」
 うめえうめえと、ナルトは顔をぐしゃぐしゃにしながらラーメンを食べた。オレが注文したラーメンにまで侵食してきたのでちょっとした小競り合いになった。メンマの応酬、麺とチャーシューを巡っての攻防。テウチさんもアヤメさんも、そんなオレ達を見て腹を抱えていた。
 ナルトが入学してきて、オレも初めて本気で笑った。
 一枚の紙幣と少しの小銭で、かけがえのないものを手に入れた気分だ。
 はたけ上忍は遠のいたはずなのに、オレの心は十分に満たされていた。
 その後味噌コールや塩コールを繰り返すのに少々手は焼いたが、そんなことはあの笑顔と天秤にかければ取るに足らない。
 悪ガキと向かい合うのがオレの仕事で、金を惜しむことが仕事じゃない。
 勿論甘やかすだけが仕事でもない。
 拳骨を落として額に血管を浮かべて叱って、反省させる。
 そしてごくたま〜〜〜〜に、ラーメンを食う。
 テウチさんによると、ナルトは一人でもラーメンを食べに来るようになったそうだ。
 そしてその食べっぷりの良さから、店に来店する里の人と少し打ち解け始めているらしい。
 放課後のナルトが笑顔になった。
 それが何よりも嬉しい。
 このままずっと平和に、ナルトが里に馴染めばいいと心から願った。ナルトについてオレに風当たりを強くする人にも誠心誠意対応するようになって相手の態度も変わってきた。
 仕事の効率も上がってはたけ上忍に近づくゼロの数が増えていく。
 最近は当初の必死さが薄れてきた。
 貯金が貯まるとそりゃあ嬉しいけど、それよりもナルトや、他のことを考える時間が増えた。
 ナルトの故郷が木の葉の里であればいい。
 まっすぐすくすく育てばいい。
 このまま、願いはすんなりと叶うだろうと思っていた。
 今は忍術も勉強もへっぽこで落ちこぼれだが、いずれ芽が出るだろうと信じていた。
 いずれ受け止める準備ができる年齢になるのを見計らって、腹に封印された九尾のことも話せるだろうとも。
 積み上がる未来への希望。
 けれど。
 雲が騒いでいる。それはミズキにも聞こえているはずなのに、欲に耳を塞がれたこいつには聞こえていない。
 木々が身をしならせて葉の音で秘密を守ろうとするも、徒労に終わった。
 ミズキが叫ぶ。
「ナルト、お前はイルカの両親の仇なんだよッッ!!」
 明かされた事実に雲も、木々も、大地さえもが里の今後と小さな少年を憂いだ。
 積み上がったものを崩すのは、何て容易い。



ちゃんと続きます。長くなったので区切ります。


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