木の葉3分クッキング

 ここは木の葉テレビ局Bスタジオ、深夜のオバケ番組『木の葉3分クッキング』の収録現場である。
 メインMCは里の誉れと名高くビンゴブックその他で広く他里に顔を知られている上忍、はたけカカシ(ただし顔の大半を隠しているため素顔は不明)。
 助手として活躍するのはアカデミー教師兼受付をこなす木の葉の里一の愛され中忍、うみのイルカ。
 本日は毎週木曜深夜25:55オンエアにも関わらずその視聴率は常に40%を越える、その秘密に迫ってみよう。


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 眩いライトの中スタジオ内に本番前の緊張した空気が流れる。
「5秒前、3、2・・・」
 キャップを被った男がハンドサインを出すと、カメラに赤いランプが灯った。
「皆さんこんばんは、はたけカカシです」
「こんばんは、助手のうみのです」
 普段と変わらぬ忍服姿のはたけ氏に対し、うみの氏は中忍ベストの代わりに白いエプロンを着用している。
 キッチンセットに隠れて見えないようになっているが、実はこのエプロンの下半分はカンペになっているのだ。
 はたけ氏もチラチラとそれを伺いながらにこやかに番組を進行する。
「本日の3分クッキングのメニューは寒い夜に嬉しい豆乳鍋です。
今日のお鍋の長所は常識の範囲内なら何を入れても美味しく出来上がるところですね。味の決め手は豆乳出汁なので」
「なるほど、冷蔵庫の残り物で作れるので寒くて買い物にいけない日なんかにピッタリですね」
 買い物に行けない一般家庭に常に豆乳が常備されているのかはこの際どうでもいい。
「そうです。本日使用するのは鶏肉ですけど、しゃぶしゃぶ用のお肉でも美味しいんですよ」
「ほぉー。でも一応今日使う食材は紹介しておきますね。以下2人分の材料です。
鶏肉600g、白菜半分、ネギ1本半、絹ごし豆腐1丁、大根半分。大根は火が通りやすいように短冊切りにしておきます」
 この場面、他局の類似番組ではボードが画面一杯に映し出され、その間に助手がカンペを読み上げればよいのだが、 木の葉3分クッキングではボードを作る予算を削っているためうみの氏がアカデミー時代のスキルをフルに活用し、いかにも暗記で頑張っていますといった具合に視聴者を騙す見せ場である。
「どの食材も熱伝導を考えた切り方にしてくださいね。さて、ここからが勝負の出汁作りです。どんどん混ぜていきましょう」
 ここで同僚の頑張りに、はたけ氏がさり気無くうみの氏の腰・・・というか臀部にするりと手を這わせる。言っておくがこれはセクハラではなく激励だ。
「っん・・・はい。水600ml、酒50ml。そこに鶏がらスープのもと大さじ1、昆布だし大さじ3を加え軽くかき混ぜるんですね」
「どうせ火を通すのでそこまで丁寧に混ぜなくても平気ですから」
 番組は滞りなく進行する――はずだった。
「ではここで豆乳を」
 はたけ氏が暴走するまでは。
「白いお汁」
「え・・・?」
 うみの氏とはたけ氏の視線が熱くぶつかる。スタジオのあちこちでスタッフのガッツポーズが見られた。
「イルカせんせ、教えて? 俺は白いお汁、どこに注ぎ込んだら良いの?」
 甘えるようで決して抗えない絶妙な口調ではたけ氏はうみの氏に問い掛ける。いつの間にか鍋から手は離れうみの氏の腰をいやらしくさする。 このまま抱きこみそうな勢いだ。
「あの、な、鍋に」
 カメラマンが頬を染めるうみの氏のアップのショットを撮ろうとすると、邪魔をするかのようにタイミングよくはたけ氏の体が隠してしまう。
「いいの? 俺がアナタ以外にお汁入れちゃっても」
 はたけ氏はうみの氏の耳元でぼそぼそと囁いているのだが、マイクはちゃんと拾っている。後にディレクターに尋ねたところ、忍び言葉でも拾える超高性能マイクを設置しているのだそうだ。
「う゛・・・ヤです・・・。ダメ・・・」
 うみの氏は身を捩らせてはたけ氏から逃れようとするが、その抵抗も既にないようなものだ。
「ダイジョーブ、せんせにしか入れないよ。どこに欲しいか教えてごらん、叶えてあげるから」
 その一言に、ついにうみの氏の理性が溶け出したようだ。
「お・・・俺、に」
「うん」
 はたけ氏の片方だけ覗く右目が爛々と輝く。
「かかしさん、ください・・・」
 薔薇の花が舞った。演出でも幻術でもなく、本物の紅く美しい薔薇の花だ。
「ごーかっくv  さーさーイルカ先生、おうち帰って可愛いお尻に白いお汁たっぷり注いであげますからねー!」
 すでに作りかけの豆乳鍋にはこんもりと薔薇の花弁が積もっている。そのままうみの氏を抱き上げ瞬身の術の印を切ろうとするはたけ氏に、バンダナを着けたスタッフが面倒そうに声を掛けた。
「カカシさん、鍋の続きどうするんっスか?」
「んー、あとは豆乳入れて塩と砂糖でテキトーに味調えて煮ればいいんじゃない?
今から楽しい夜の始まりなんだから邪魔しないでよね!」
 ちなみにこの声を掛ける彼も視聴者にはファンが多いそうだ。
 煙が晴れるとスタジオには大量の薔薇の花弁と豆乳鍋の材料、それにいつものことだと気にせず撤収作業を始めるスタッフだけが残された。


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 尚この『木の葉3分クッキング』は木の葉テレビ有料チャンネルで放送している。
 それでは皆さん、ごきげんよう。


※このあと豆乳鍋はスタッフが、うみの中忍ははたけ上忍が残さず美味しくいただきました※


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